2015.07.31更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

離婚に際して、有責配偶者からの離婚請求が認められるか、という問題があります。以前もお話ししました通り、長期間の別居の継続など、一定の条件下では、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があることとなります。

 

それでは、離婚ではなく、離縁の場合はどうなるのでしょうか。具体的には、養子縁組をした養父・養子間で、養父の暴力を理由として仲違いが生じ、養父が養子縁組の解消を要求してきた場合は、その養子縁組の解消(離縁)が認められてしまうのでしょうか。

 

まず、離縁には、離婚の場合と同様、①協議離縁②調停離縁③審判離縁④裁判離縁の4つがあります。①は、当事者で合意して離縁すること、②は調停手続きで離縁を合意し、離縁することです。①と②は、手続きこそ違え、当事者の合意を必要とする点で、共通します。

 

離縁の合意ができない場合は、③審判手続きに移行して離縁の審判を出してもらうか、④裁判を提起して、離縁の判決をだしてもらうしかありません(なお、離縁の審判手続に移行することは、ほとんどないように思います。つまり、実際は③となる場面はほとんどなく、④の裁判離縁を目指して裁判を提起することとなるでしょう。)。

 

離縁については、民法814条に規定があります。

 

民法814条1項

縁組の当事者の一方は、次に掲げる場合に限り、離縁の訴えを提起することができる。

1 他の一方から悪意で遺棄されたとき。

2 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき。

3 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。

 

上記1、2の場合は、離縁できるということは問題ないかと思います。

問題なのは、上記の例のような有責者が提起する離縁請求でも、「離縁を継続し難い重大な事由」があるということができるか否かです(なお、仲違いの責任がない養子からの離縁請求は、当然に認められるものと思います。)。

 

いろいろ判例・裁判例を見てみましたが、有責者からの離縁請求については、きわめて慎重(消極的)に判断している場合がほとんどであるように思います。養親子関係を破たんさせた原因が主として存在する有責当事者からの離縁請求は認められない、との判例すらありますので、有責者からの離縁請求は、相当ハードルが高いといってよいでしょう。

 

とはいえ、養子縁組が形骸化していることが明らかであり、養子縁組を維持することに何の合理性も見いだせない場合など、一定の条件下では、離婚の場合と同様、離縁を認めてもよい場合もあるのではないでしょうか。

 

特に、別居が相当期間続き、親子としての交流もまったく存在しなくなってしまったような場合は、有責者からの離縁を認めても、社会正義に著しく反するとはいえないように感じます。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.28更新

弁護士会松戸支部所属の弁護士の川越伸裕です。

 

子どものいる夫婦が離婚したとき、その子どもを育てている配偶者に対して、養育費を支払う必要があります。例えば、離婚をして、子どもを妻が育てているときは、夫は、養育費を支払う必要があります。

 

養育費で、問題になることが多いのは、①養育費額をいくらにするのか、②養育費をいつまで支払うことにするのか、という2点でしょう。

 

まず、①養育費額ですが、双方の収入や生活状況に応じて、一応の基準が定められています。「養育費算定表」などで検索していただければ、だいたいの養育費額が分かるのではないかと思います。

 

次に、②養育費をいつまで支払うのか、という問題ですが、一般的には、子どもが20歳になったときまで、とされることが多いと思います。20歳になれば、もう成人ですので、監護養育をする必要がない、という理屈からこのようにされることが多いものといえます。

 

もっとも、20歳以上の子どもの養育について、費用負担をまったくしなくて良いか、というと、必ずしもそうではないといえます。特に、近年では、大学まで進学する子どもも多く、大学卒業の22歳まで、金銭の負担を請求することも考えられます。

 

この場合は、子どもは20歳以上ですが、未成熟子であるという理由で養育費を請求するか、または、子ども自身の扶養請求を行っていく(任意で合意が成立しない場合は、調停を申し立てる)という形になります。

 

では、このような請求があった場合は、20歳を超えた子どもへの費用負担をしなければならないのでしょうか。

 

基本的には、20歳を超えてまで、子どもへの費用負担をする必要はないものと思いますが、家庭環境などの事情によっては、費用負担が認められる可能性も否定できません。

 

具体的には、①その子どもの大学進学が当然なものと考えられていたかや、②その子どもに援助をする必要性や相当性があるか、等といった事情によって、20歳を超えた子どもへの費用負担の可否が判断されることとなろうかと思います。

 

例えば、①については、親族の大多数が大学卒業の学歴を有していたり、両親がともに大学卒業の学歴を有していたりした場合などは、子どもも大学に行くことが家庭環境から見て当然と判断される可能性があります。

 

また、従来から、家庭内で、子どもが大学進学の希望を持っており、両親も、大学進学を望んでいたという事情があれば、子どもが大学に行くことが当然と判断される可能性があります。

 

②については、両親双方の資力を踏まえ、援助をする側が、子どもに援助することができるだけの相当な余裕があるか、という点が検討されるでしょう。

この際には、援助をする側の債務の状況や、再婚、新たな子どもの出生の有無など、具体的な事情を見て判断されることとなるでしょう。

 

また、子どもが、奨学金を取得しているかや、アルバイト等によって、学費(の一部)をねん出しているか等の事情も、評価の対象とされるべきであると考えます。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.26更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

選挙のとき、投票所へ、子どもを同伴して行くことが、原則認められるように法改正を行う方針であるとのニュースを見ました。

 

むしろ、これまで、子供連れで投票所に入ることができなかったのか、と、少々びっくりしました。

 

私の記憶では、小学生高学年頃まで、親に連れられて、投票所に入っていたように思います。野田市の八幡神社の中にある建物まで連れられて行き、風船やシャボン玉をもらって帰ってきた記憶がありますので、当然、子どもを連れて投票所に入ることは可能なのだと思っていました。

 

調べてみたところ、公職選挙法58条に、次の条文があることが分かりました。

 

「選挙人、投票所の事務に従事する者、投票所を監視する職権を有する者又は当該警察官でなければ、投票所に入ることができない。ただし、選挙人の同伴する幼児その他の選挙人とともに投票所に入ることについてやむを得ない事情がある者として投票管理者が認めたものについては、この限りでない。」

 

条文を読む限り、幼児は投票所に連れて行けそうですが、小学生は投票所に入ることができない、といえそうです。小学校低学年の子を、外で待たせて投票するなどは、難しいことも多いのではないかと思いますので、今回の改正については、全面的に支持したいと思います。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.25更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

昨日の記事の続きになりますが、昨日、松戸支部の弁護士会臨時総会が開催されました。

 

昨日は、労働弁護団の総会に出席するため、つくば市に行っていたのですが、帰りのつくばエクスプレスが、大雨による停電の影響で、かなり遅れてしまっており、そのため、弁護士会総会には、30分以上遅れての出席となりました。

 

松戸の弁護士会に来て驚いたことは、総会のとき、たくさんの弁護士が自ら出席することです。昨日も、70名を超える弁護士が総会に出席しており(松戸支部管内のすべての弁護士の過半数を超えています。)、会議室が満杯になっていました。

 

弁護士会費の問題など、様々な討議をし、午後8時前に臨時総会は終了しました。予定では、午後7時頃には終了しているはずであったことから、たくさんの意見や討議がなされたことがお分かりいただけるのではないかと思います。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.24更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

今日は、労働弁護団関東ブロック総会という集まりに出席するため、茨城県つくば市に行って来ました。開催場所が、つくばエクスプレスのつくば駅から徒歩5分程度のところにありましたので、流山の事務所からは、1時間かからずに着くことができました。

 

基調講演として、大学の教授に、トマ・ピケティの経済論について解説していただきました。正直、理屈は良く分からなかったのですが、1975年頃以降、貧富の格差が拡大している事実、特にアメリカ等において、そのような傾向が明らかであること、などを調査において明らかにしたことに強い印象を受けました。

 

日本はまだ、アメリカほど貧富の格差は無いようですが、格差が拡大する傾向にあることは間違いありません。早急に、格差の拡大を防止する何らかの対応を取らなければいけないはずです。

 

ピケティは、格差拡大の是正策として、いくつかの提言もしています。その提言を日本で実施すべきかというと、些かためらいもありますが、少なくとも、労働組合などの労働組織によって、格差の是正を求める方向付けをしなければならないのではないかと思いました。

 

今日は、夜に、松戸の弁護士会で総会がありましたので、午後5時頃に会場を後にしなければならなかったのが、心残りでした。ごはん食べたかったなぁ…。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.23更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

民法第754条本文には、「夫婦間でした契約は、いつでも夫婦の一方からこれを取り消すことができる。」との規定があります。

 

夫婦間で契約などすることがあるのだろうかと疑問に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、例えば、<夫が妻に、「給料が出たら宝石を買ってあげる」と約束する例>など、夫婦間で何らかの約束をすることは十分にあり得ることです。

 

上記の条文は、この約束をいつでも取り消してよい、すなわち、約束を破ってもよいとする条文なのです。

 

このような、夫婦仲を悪くしそうな条文が、なぜ規定されたのでしょうか。

 

仮に、夫婦間の約束を取り消すことができないとすれば、上記の例では、妻が夫に対して、約束の履行を求め、しまいには、裁判を起こすなど、夫婦関係を断絶させるような、重大な結果を起こしてしまいかねません。

 

このように、約束を取り消すことができないとすると、かえって、問題をこじらせてしまいかねないこともあるのです。夫婦なので、契約や権利を振りかざして喧嘩するのはいけません、円満に話し合いなさい、というのが、法律の求めるところなのでしょう。

 

もっとも、夫婦間の取り消しについては、例外的に、認められない場合が2つあります。

 

1つ目は、第三者の権利を害してしまうときです。

例えば、夫が妻に自動車をあげた(贈与した)とします。妻が、その自動車を中古自動車として第三者に売却してしまった場合、夫が上記贈与契約を取り消すとすると、自動車を買った第三者は、損害を受けることとなります。このような場合には、夫婦間の契約とはいえ、取り消すことができなくなってしまうのです。

 

2つ目は、夫婦関係が破たんしているときです。

上記のとおり、本来、この条文は、夫婦関係の良いときにした約束(契約)は、夫婦間で円満に話し合って解決するもので、法は介入しません、というものです。

 

とすれば、夫婦関係が悪くなり、破たんしてしまったときには、実質上、夫婦の実態はない(=もはや「赤の他人」である)のですから、民法754条によって、取り消しを認める必要はないことになるのです。

 

すなわち、民法754条によって、夫婦間の取り消しが認められるのは、夫婦が円満なときにした約束を、円満なときに取り消す場合に限られることとなります。①夫婦が円満なときにした約束を、夫婦関係破たん後に取り消すこと、②夫婦関係が破たん後にした約束を、同じく夫婦関係破たん時に取り消すこと、は、いずれも認められません。

 

なお、滅多にないことでしょうが、夫婦関係が一旦破たんした後、仲直りをして円満になった場合、破たん時にした契約を、円満になった後に取り消すことができるかという問題があります。

 

現在は夫婦関係が円満であるので、取り消しを認めてもいいようにも思われます。しかし、夫婦関係が破たんしたときになされた契約は、いわば赤の他人同士の約束と評価すべきでしょう。とすれば、その後、夫婦円満となったからといって、契約を取り消すことができるようになると解釈すべきではないものと思われます。

 

結局、夫婦間で取り消しができるのは、かなり限定された場合である、ということがいえると思います。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.22更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

日本の話ではないのですが、猫の所有権が法廷で争われているとのニュースを見ました。

 

それによると、2007年に飼っていた猫が行方不明になってしまいましたが、2014年になって、新しい飼い主に飼われていることが発覚したそうです。

 

写真を見ると、この猫は黒毛と白毛が混ざった猫(黒白猫)のようですが、このように法廷での争いとなってしまうと、この猫のように、簡単に白黒つける訳にはいかなくなってしまうのではないかと思います。

 

さて、日本で同様のことが起こった場合、猫の所有権はどちらのものとなるのでしょうか。

 

猫が行方不明になったと言っても、猫に対する所有権が失われるものではありません。これは、例えば財布を落として行方不明になってしまったとしても、財布の所有権が失われるものではない(拾った人から返してもらえる)ことと同じように考えることができます。

 

すなわち、猫の所有権は、もとの買主にあり、新しい飼い主は、猫を返さなければならなくなるでしょう。

 

もっとも、猫を飼っている間に生じたエサ代や予防接種代などの経費は、もとの買主に請求することができるものと思います。

 

なお、拾った猫の所有権を得るには、警察に遺失物として届け、3か月経過すれば、所有権を得ることができます。

 

ところで、道端にいる猫を勝手に拾って飼うことに、刑事上の問題が生じる可能性があります。

 

拾った猫が野良猫で、誰の所有物でもないのであれば、拾って飼うことに問題はないのですが、飼い猫であることが明らかである場合、例えば首輪をしていたり、鑑札をつけていたり、毛並みが良かったり、躾が行き届いていたりした場合は、きちんと警察に届け出なければなりません。

 

届出を行わない場合は、遺失物横領という罪に抵触する可能性がありますので、お気を付けいただきたいと思います。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.20更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

弁護士とはいえ、すべての法律の条文を暗記しているわけではありません。

 

ほとんどの弁護士は、何という名前の法律の、大体この辺りに条文があったなぁ、という程度に漠然と記憶しておき、相談があったときには、六法全書を参照する、という程度の記憶であろうと思います。

 

とはいえ、有名な条文は、きちんと暗記していることが多いです。今日は、そのような有名な条文の中から、「公序良俗」の条文をご紹介します。

 

この条文は、民法90条に「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」と規定されているものです。弁護士に民法90条は何を規定していますか、と聞けば、公序良俗、ときちんと答えてくれるはずです。

 

さて、公序良俗とは、「公の秩序又は善良の風俗」の略ですが、簡単にいえば、一般的な倫理ということができるでしょう。上記の公序良俗の条文は、倫理に反することをしたら、その行為は無効だぞ、ということを述べているのです。

 

どのような行為が「公序良俗」に反するものになるかは、それぞれの行為を具体的に検討する必要があります。時代によっても変わり得る概念といえるでしょう。公序良俗の規定自体は、明治29年の制定ですので、そのときに想定された「公序良俗」と現代の「公序良俗」とは、おのずから違うものであると思います。

 

とはいえ、公序良俗に反するか否かを考えるに当たって、まったく基準がないわけでもありません。一般に公序良俗は、①財産秩序に反するもの、②倫理的秩序に反するもの、③自由・人権を侵害するもの、の3つに分類されることが多いです。

 

①財産秩序に反するものとは、例えばネズミ講のように犯罪性のあるもの、賭博など射幸性の高いもの、などが例として挙げられます。裁判では、ホステスに客の飲み代のツケを保証させるシステムを公序良俗違反としたものもあります。

 

②倫理秩序に反するものとは、例えば売春契約や妾契約のようなものです。

また、不倫相手に「妻と別れて、君と結婚するよ」と約束したといっても、それは公序良俗に反しますので、その約束を履行しないことを理由とした慰謝料の請求はできないこととなります。

裁判では、裏口入学をさせるとの契約が、公序良俗違反とされたことがあるようです。

 

③自由・人権を侵害するもの

これは、説明するまでもないように思いますが、基本的人権を侵害するような行為は、公序良俗違反となります。

雇用契約を締結するにあたって、男女を差別するような雇用契約とすることは、人権を侵害するものとして、公序良俗違反となるでしょう。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.19更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

一口に「会社で働く」と言っても、実際は、様々な形態の勤務状況があります。

 

例えば、雇用期間の定めのない社員、すなわち正社員として勤務している方がいます。このような形態で働いている方は、定年や解雇等以外で、会社から辞めさせられることはなく、安定した勤務形態であるといえます。

 

一方で、雇用期間の定めのない社員、すなわちパートタイム等、期間雇用をされている方もいます。このような形態で働いている方は、通常、雇用期間の満了ごとに、契約の更新をする必要があり、更新をしてもらえない場合は、雇用契約が終了してしまいかねないこととなります。このような意味で、正社員に比べて、不安定な勤務形態であるといえるでしょう。

 

もっとも、期間雇用といっても、何度も更新を繰り返し、何十年も同じ会社で勤務している方もいらっしゃいます。このようなときは、例え契約上、期間雇用とされていても、その実質は、正社員に準じるものであると評価できる場合があります。

 

このような労働者を、労働期間の満了で更新を拒絶する(いわゆる「雇い止め」)のは、契約の更新が当然になされると期待していた労働者に酷ですし、実質は解雇と異ならないものです。

 

そこで、①複数回にわたって契約が更新された、②勤務内容が正社員と差異がなかった、③採用に際して会社側から長期雇用、本工への登用を期待させるような言動があった、④更新手続が形式化していた、などの事情がある場合には、(更新拒絶の場合であっても)解雇があったのと同様に考え、雇い止めについて、社会通念上、合理的な特段の事情がない限りできないと考えられています。

投稿者: 流山法律事務所

2015.07.17更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

台風が、西日本を直撃しています。河川の決壊なども起こっているようです。これ以上、大きな被害が出ないよう、祈るばかりです。

 

さて、大規模な台風が来ると、トタン屋根や屋根瓦等が強風に飛ばされてしまうことがよくあります。それだけならまだ良いのですが、飛ばされた屋根瓦が隣家を直撃し、窓ガラスを壊してしまったり、壁に損傷を与えてしまったりすることもあり得ます。

 

このようなとき、被害を受けた隣家は、屋根瓦の持ち主に損害の賠償を請求することができるのでしょうか。

 

民法は、717条に、このようなときの規定を置いています。

 

民法717条1項

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

 

簡単に言えば、土地の上にある工作物(もちろん、家屋もこれに含まれます)に、通常備えるべき安全性が欠けていたときには、原則として損害を賠償しなければならない、という規定です。

 

本件に当てはめれば、工作物である家の屋根に、通常備えるべき安全性が欠けていた場合、つまり、普通なら屋根瓦など飛ばないような風で屋根瓦が飛んで行ってしまって被害を出したら、原則として損害を賠償しなければいけない、ということになります。

 

すなわち、台風が巨大で、被害も大きく、近所でも屋根瓦等の飛散が複数発生しているような場合は、屋根に「通常備えるべき安全性」が欠けていたと評価できず、損害賠償を請求できない可能性が高いのではないかと思われます。

 

一方、台風の規模が弱く、被害もごくわずかで、近所で屋根瓦の飛散など発生していないような場合は、屋根自体に「通常備えるべき安全性」がなかったから屋根瓦が飛んだのである、と評価し得るのではないか(即ち、損害賠償の請求が認められる可能性が高いのではないか)と思われるのです。

 

最近、これが大きな問題になったのは、先の東日本大震災のときです。

地震で家の塀(土地の工作物)が崩れ、隣家に被害を与えた、という事例が数多く発生し、私も何件か相談を受けました。

 

東日本大震災は、未曽有の震災であり、当時、私がいた前橋でも震度6くらいの揺れがありました。このような震災で塀が崩れたとしても、それは、塀に「通常備えるべき安全性」が欠けていたということは困難であったと思われます。

投稿者: 流山法律事務所

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