2015.07.23更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

民法第754条本文には、「夫婦間でした契約は、いつでも夫婦の一方からこれを取り消すことができる。」との規定があります。

 

夫婦間で契約などすることがあるのだろうかと疑問に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、例えば、<夫が妻に、「給料が出たら宝石を買ってあげる」と約束する例>など、夫婦間で何らかの約束をすることは十分にあり得ることです。

 

上記の条文は、この約束をいつでも取り消してよい、すなわち、約束を破ってもよいとする条文なのです。

 

このような、夫婦仲を悪くしそうな条文が、なぜ規定されたのでしょうか。

 

仮に、夫婦間の約束を取り消すことができないとすれば、上記の例では、妻が夫に対して、約束の履行を求め、しまいには、裁判を起こすなど、夫婦関係を断絶させるような、重大な結果を起こしてしまいかねません。

 

このように、約束を取り消すことができないとすると、かえって、問題をこじらせてしまいかねないこともあるのです。夫婦なので、契約や権利を振りかざして喧嘩するのはいけません、円満に話し合いなさい、というのが、法律の求めるところなのでしょう。

 

もっとも、夫婦間の取り消しについては、例外的に、認められない場合が2つあります。

 

1つ目は、第三者の権利を害してしまうときです。

例えば、夫が妻に自動車をあげた(贈与した)とします。妻が、その自動車を中古自動車として第三者に売却してしまった場合、夫が上記贈与契約を取り消すとすると、自動車を買った第三者は、損害を受けることとなります。このような場合には、夫婦間の契約とはいえ、取り消すことができなくなってしまうのです。

 

2つ目は、夫婦関係が破たんしているときです。

上記のとおり、本来、この条文は、夫婦関係の良いときにした約束(契約)は、夫婦間で円満に話し合って解決するもので、法は介入しません、というものです。

 

とすれば、夫婦関係が悪くなり、破たんしてしまったときには、実質上、夫婦の実態はない(=もはや「赤の他人」である)のですから、民法754条によって、取り消しを認める必要はないことになるのです。

 

すなわち、民法754条によって、夫婦間の取り消しが認められるのは、夫婦が円満なときにした約束を、円満なときに取り消す場合に限られることとなります。①夫婦が円満なときにした約束を、夫婦関係破たん後に取り消すこと、②夫婦関係が破たん後にした約束を、同じく夫婦関係破たん時に取り消すこと、は、いずれも認められません。

 

なお、滅多にないことでしょうが、夫婦関係が一旦破たんした後、仲直りをして円満になった場合、破たん時にした契約を、円満になった後に取り消すことができるかという問題があります。

 

現在は夫婦関係が円満であるので、取り消しを認めてもいいようにも思われます。しかし、夫婦関係が破たんしたときになされた契約は、いわば赤の他人同士の約束と評価すべきでしょう。とすれば、その後、夫婦円満となったからといって、契約を取り消すことができるようになると解釈すべきではないものと思われます。

 

結局、夫婦間で取り消しができるのは、かなり限定された場合である、ということがいえると思います。

投稿者: 流山法律事務所

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