2018.05.27更新

前回の記事の続きとなります。

 

①最判昭和38年5月31日(青色申告に係る更正処分)

所得税の申告に際し,税務署が「売買差益率検討の結果,記帳額低調につき調査差益率により基本金額修正,所得金額更正す」との理由を付記し,所得金額の更正処分(不利益処分)を行った案件。

これに対し,最高裁判所は,「…附記すべきものとしている理由には,特に帳簿書類の記載以上に信憑性のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とする」「本件の更正処分通知書に附記された前示理由は,…いかなる勘定科目に幾何の脱漏あり,その金額はいかなる根拠に基づくものか,また調査差益率なるものがいかにして算定され,それによることがどうして正当なのか,右の記載自体からこれを知るに由ないものであるから,…理由附記の要件を満たしているものとは認め得ない。」と判示した。

 

②最判昭和60年1月22日(旅券発給拒否処分)

渡航先をサウジアラビアとする一般旅券の発給を申請したところ,外務大臣は「旅券法13条1項5号に該当する」との理由を付して申請を拒否する処分(不利益処分)をした。

これに対し,最高裁判所は,本件理由付記の程度について,法13条1項5号は概括的抽象的な規定であるから,それを根拠に発給の拒否処分を行う場合には,「いかなる事実関係に基づき,いかなる法規を適用して拒否処分がなされたかを申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならず,単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは…旅券法の要求する理由付記として十分でない。」と判示した。なお,同判決では,伊藤正己裁判官によって「外務大臣が申請者の海外渡航には法の定める害悪発生の相当の蓋然性が客観的に存在すると判断した根拠が拒否の理由のうちに示される必要がある。」との補足意見が付されている。

 

③最判平成4年12月10日判決(公文書非開示決定処分)

情報公開請求に対し,東京都知事が「東京都公文書の開示等に関する条例第9条8号に該当」との理由を付して,公文書非開示決定処分(不利益処分)をした。

これに対し,最高裁判所は,「条例が右のように公文書の非開示決定通知書にその理由を付記すべきものとしているのは,同条例に基づく公文書の開示請求制度が,都民と都政との信頼関係を強化し,地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的とするものであって,…実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,非開示の理由を開示請求者に知らせることによって,その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たもの」「このような理由付記制度の趣旨に鑑みれば,公文書の非開示決定通知書に付記すべき理由としては,公開請求者において,条例第6条第1項各号所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず,単に非公開の根拠規定を示すだけでは,…条例第11条第4項の要求する理由付記としては十分ではないと言わなければならない。」と判示した。

 

以上の判例等からすれば,法令が要請する理由付記の程度は,少なくとも不利益処分に至った事実関係の認定が具体的になされており,かつ不利益処分をした根拠(法令)及び適用関係が具体的に明示されている必要があるものと考えられます(但し,単に法令上の根拠規定を示すだけでは不十分)。その上,㋒上記㋐㋑の内容が,理由付記の記載自体から了知できる程度のものでなければなりません。

投稿者: 流山法律事務所

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