2016.02.13更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

皆さんは、本年の6月までに、新たに「刑の一部執行猶予制度」が開始されることをご存知でしょうか。

 

執行猶予とは、刑を言い渡された者に対し、一定の条件下で、一定の期間その刑の執行を猶予し、その猶予期間を無事に経過すれば刑の言い渡しはその効力を失うものとする制度のことをいいます。

 

例えば、「懲役1年執行猶予3年」という判決を受けた場合、ただちに刑務所に行く必要はなく、無事に3年間経過すれば、刑務所に行く必要がなくなる、という制度です。

 

現在の執行猶予制度は、「刑の全部に執行猶予をつけるかつけないか」という選択肢しかありません。執行猶予がつけば、執行猶予が取り消されない限り刑務所に行かなくてもよくなる反面、執行猶予がつかなければ、ただちに刑務所に行かなければならないのです。

 

今回、開始される制度は、上記の中間の制度、つまり「刑の一部は実刑、一部は執行猶予」という判断を下せるようになるものです。

 

例えば、「懲役1年、うち6か月は刑の執行を3年猶予する」という判決を下すことができるようになり、その場合、6か月間刑務所で刑を受け、残りの6か月は釈放され、3年間の期間が過ぎれば刑務所に行かなくて済む、ということとなるのです。

 

この制度は、受刑者を比較的早期に釈放し、保護観察に付しながら更生を図るもので、受刑者の再犯防止を目的として開始されるものです。しかし、いいことばかりでなく、いろいろな問題点が残っていることは否めません。

 

まず、重罰化傾向が進んでしまうのではないか、という問題点があります。

これまでの制度では執行猶予になっていた事例に、一部執行猶予が適用されるようになる可能性は、相当高いのではないかと考えています。

 

例えば、覚せい剤を使用した等の薬物事犯では、初犯であれば、これまでは執行猶予がついていました。一度はやり直しの機会を与えるということであり、妥当な結論であると思います。

 

しかし、一部執行猶予制度ができれば、初犯であっても、「少しは刑務所に入れておこうか」、という判断になりかねないのではないでしょうか。これは、これまでよりも重く処罰するということにつながるものです。

 

次に、一部執行猶予が更生・再犯防止につながる制度であるか疑問であると感じます。

 

これまでの執行猶予であれば、刑務所に行かなくて済み、社会復帰も比較的容易に成し遂げることが可能でした。

 

これに対して、刑の一部執行猶予は、刑務所に行く制度であり、まさに実刑そのものです。たとえ短期間になるとはいえ、刑務所に入ってしまった人の社会復帰を実現するには、非常に多くの努力が必要となってしまうのではないでしょうか。一部執行猶予は、必ずしも更生・再犯防止を実現する制度ではないように感じます。

 

さらに、社会復帰を支援する方策の不足という問題点もあります。

 

上記のとおり、一部執行猶予制度は、正に実刑に他ならないのですから、一回刑務所に入り、社会から離されてしまった受刑者の社会復帰を支援する必要性は高いといえます。

 

しかし、このような社会復帰を支援する方策は不足しているのが現状であり、社会内でのサポートを十分に行うことは、現状では不可能です。

 

結局、これまでの制度であれば、執行猶予により社会内で更生できていた者を、いたずらに刑務所に入れ、社会復帰を難しくしたうえで、何の支援もなく社会に戻す、という運用になってしまうのではないか、と懸念しています。

 

ほかにも、様々な問題点はあるように思います(弁護士会の中には、一部執行猶予制度に反対する決議をしたところもあるようです。)。この新しい制度によって、更生にどのような影響が出てくるのか、慎重に見極める必要があるように思います。

投稿者: 流山法律事務所

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