2015.07.10更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

幼少期の性的虐待により、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病を発症したとして、女性が加害者の男性に損害賠償を求めていた裁判で、最高裁は、損害賠償を命じた、札幌高裁の判断を支持する判決を下しました。

 

この事件で、問題となっていたのは、何十年も前に行われた虐待の責任を問うことができるかという点です。

 

事件が発生した後、時間が経ってしまうと、事件による権利関係の存否が不明確になってしまうことがほとんどであると思います。はるか昔の事実について、記憶のある証人を見つけたり、客観的な証拠を獲得したりすることは、不可能であることが多いといえるでしょう。

いわば、権利関係が「宙ぶらりん」な格好になってしまうこととなってしまうのです。

 

そのため、法律は、権利関係を速やかに確定させるため、権利を一定の期間内に行使しないと、その権利が消滅する制度(除斥期間、じょせききかん)を設けています。

 

本件のような、虐待を原因とする損害賠償請求については、除斥期間は、「不法行為の時から20年」と規定されています。すなわち、虐待があったとしても、不法行為の時から20年経ってしまったら、もはや損害賠償を請求することができなくなってしまうということになるのです。

 

本件でも、一審の裁判所は、性的虐待のときから計算すれば、すでに除斥期間が過ぎているとして、女性の訴えを斥ける判決を下しています。

 

一方、控訴審である札幌高裁は、女性の訴えを認める判決を下しました。

これは、除斥期間の起算点である「不法行為の時」を、性的虐待のときではなく、性的虐待によって病気が発症したとき、と解釈したもので、除斥期間の起算点を後ろにずらすことで、女性の権利の保護を図ったものといえます。

 

PTSDやうつ病は、被害に遭った後、すぐに発症するものではなく、時間を置いてから発症することがあります。本件でも、PTSDは1983年に、うつ病は2006年に、それぞれ発症したという事情があるようです。

 

札幌高裁は、PTSDについては、発症時からすでに20年以上経っていることから、除斥期間にかかっていると判断しましたが、うつ病については、いまだ20年が経過していないことから、この点を捉えて、損害賠償の請求を認めたものです。

今回の最高裁は、この札幌高裁の判決を支持するものでした。

 

本件は、虐待などの除斥期間の起算点を、虐待時でなく症状発症時として、除斥期間の起算点を後ろにずらし、少しでも被害者の権利保護を拡大しようとした点において、評価できるものといえるでしょう。

 

もっとも、幼少期の虐待については、すぐに救済を求めることが難しいという特性があり、いざ成人して被害の回復を求めようとしても、除斥期間の壁によって救済ができなくなってしまっていることもあると思われます。

 

少なくとも幼少期の虐待などについては、除斥期間について、法的な整備を行う必要性があるのではないでしょうか。

投稿者: 流山法律事務所

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