2015.06.24更新

流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。

 

金融機関にお金を預ける契約(預金契約)の法的性質は「消費寄託契約」であるとされています。

 

消費寄託契約とは、金銭などの代替物(同種の他のもので代替できるもの)を預ける契約で、預かった人(銀行)はその金銭を自由に使用(消費)してよく、預けた人の請求があれば、同種のほかのものをもって返還すればよいとされている契約のことです。

 

具体的にいえば、私が千葉銀行に100万円預けたとします。千葉銀行は、その100万円を使用して、会社などへ貸付をし、利息を取るなどの経済活動をしてかまいません。私が、100万円を返すように千葉銀行に請求すれば、千葉銀行は100万円を返してくれます。もっとも、それは当初預け入れた100万円ではなく、別の100万円(お札の番号の違うもの)で返してくれることになります。

 

ところで、消費寄託契約は、「要物契約」であるとされています。要物契約とは、私が100万円を現実に千葉銀に持って行き、千葉銀がこれを受領することによって成立する契約、ということです。100万円という、預ける「物」を必ず持って行く必「要」があるから、要物契約と言われているのです。

 

それでは、私が100万円を持って行って、窓口の受け皿に置いたところ、店員がそれを取る前に、他の人がそれを盗んで行ってしまった場合、預金契約は成立したということができるでしょうか。

預金契約の成立時期は、どのように捉えるべきなのでしょうか。

 

もし、その100万円を銀行が受領しており、預金契約が成立していたというのであれば、私は100万円を払い出すよう、銀行に請求することができます(窃盗の被害は銀行が負うことになります)。

 

一方、100万円の受領が済んでおらず、預金契約が成立していないとするのであれば、銀行は100万円を払い出す義務を負わないことになります(窃盗の被害は私が負うことになります)。

 

実は、類似の事例が、以前(戦前の話ですが)ありました。

 

最高裁(当時は大審院)は、「預金者が銀行の窓口に現金を差し出し、銀行員がこれを認識してうなずいたとしても、そのままやり掛けの仕事を続けている間に、右現金が盗まれた、という場合は、まだ右現金の占有が銀行に移転していたものとはいえない。」とし、預金契約が成立していないと判断したようです。

 

考えてみれば、ATMを使ってお金を預け入れる際、お金を金銭挿入口に入れた段階(金銭挿入口の「閉じる」ボタンを押していない状態)のときに、お金を盗まれた場合には、銀行に責任追及するのは少し違うような気もします。

 

それと同様に考えるのであれば、窓口でも銀行員がお金をきちんと受け取った段階で、預金契約が成立するとした上記判決は、それなりにうなずけるものもあるように思います。

投稿者: 流山法律事務所

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