流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。
延長コードを使って、隣の家のコンセントから電気を拝借していた人が窃盗の疑いで逮捕されたというニュースを見ました。勝手に電気を使用していれば、窃盗になると初めて知った方もいるのではないでしょうか。
実は、電気の無断使用が窃盗になるか否かは、かつて議論があったのです。
窃盗については、刑法という法律の第235条に規定があります。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
かつて議論になったのは、この条文に規定されている「財物」の意義が明確でなかったからでした。
ある説は、「財物」とは有体物、すなわち、空間の一部を占め、有形的存在を持つもの(固体、液体、気体)に限られる、としました(有体物説、といいます。)。
普通、窃盗といえば、現金や本など、形あるものが被害品になることがほとんどですから、この解釈は、ある意味、常識に適ったものといえるでしょう。
電気は、固体でも液体でも気体でもなく、形なきものですから、この解釈に立てば、窃盗の規定にいう「財物」に当たらないこととなります。
一方、「財物」は、有体物に限らず、管理することが可能なものであればよいとする説もありました(管理可能性説、といいます。)。
固体、液体、気体に限られず、管理することが可能なものであれば、「財物」に該当するということですから、「財物」の意義をかなり広く解釈したものといえるでしょう。
もっとも、財物の意義を、ここまで広く解釈してよいかは疑問があります。
例えば、他人の冷蔵庫に自分のペットボトルを入れて冷やした場合、これは冷気という財物を窃取したことになってしまいかねないのです。
このように、かつては大きく上記の2つの説があり、有体物説に立てば電気は「財物」ではなく(窃盗罪が成立しない)、管理可能性説に立てば電気は「財物」となる(窃盗罪が成立する)ことはお分かりいただけたかと思います。
この点、裁判所は、電気の窃盗について、管理可能性説に立ち、窃盗罪の成立を認める判決を下していました(明治36年の判決です。)。
しかし、この点に関する論争が続いたためか、明治40年に現行刑法が成立したときに、電気窃盗の規定が設けられました。
(刑法第245条)
この章の罪については、電気は、財物とみなす。
そのため、現在では、電気が窃盗の客体となることに争いはなくなりました。