流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。
前回の繰り返しになりますが、遺言書の作成に当たって、自筆での作成、日付の記載、氏名の記載、押印の4要件を満たさない遺言書は無効になってしまいます。
このうち、前回は、遺言書の有効性に関し、押印の問題点についてお話ししました。
今回は、上記の4要件のうち、「自筆での作成」についてお話ししたいと思います。
遺言書は、遺言者の自筆で記載されたものでなければなりません。しかし、何らかの理由で自筆での記載ができない場合や、音声や映像で遺志を遺したいと考える場合もあるかも知れません。
このような場合、遺言書は有効といえるのか、以下、考えてみます。
1 代筆の場合
遺言者の腕が不自由であるとか、高齢で指が震えるなどの理由で、遺言書を代筆してもらった場合、その遺言書が「自筆での作成」ということができるかが問題となります。
この問題を考えるに当たっては、遺言書の有効要件に「自筆での作成」が要求される趣旨を考える必要があります。
自筆での作成が要求されている趣旨は、自筆であれば、それを遺言者が自分の意思に基づいて記載したものであると判断することができ、遺言者の遺志を明らかにすることができるところにあります。
とすれば、代筆での作成であれば、遺言者が自分の遺志に基づいて記載したか否か判然としなくなってしまいますので、上記趣旨に反してしまうこととなります。
このような理由から、代筆で作成された遺言書は、無効であると解釈すべきです。
2 遺言書作成を介助した場合
代筆とまでいかなくても、腕や目が不自由な人の遺言書記載を手伝う(介助する)場合もあり得るでしょう。このような場合に、作成された遺言書は有効となるのでしょうか。
この問題も、結局は、上記の趣旨に適合しているか否かで判断されるものといえます。すなわち、介助と言いながらも、実質は代筆と見なしうる場合(例えば、手を添えて、遺言書の記載を誘導した場合など)には、遺言書は無効と解釈すべきです。
一方、手を紙のところまで誘導しただけであるとか、筆記を容易にするために支えただけであるなどの場合は、自筆での記載の要件を満たし、遺言書が有効と解釈されることもあり得るものと思います。
3 パソコンで作成した場合
パソコンでの遺言書は、誰でも作成することができるものですから、遺言者本人が自分の遺志に基づいて記載したことが明らかではありません。
とすれば、上記の趣旨に照らし、パソコンで作成された遺言書は無効と解釈すべきです。
4 録音・録画による場合
なお、録音・録画によって遺言がなされた場合、遺言者の遺志は明らかなものであるとはいえるでしょうが、民法上、遺言は、書面によってなされるものとされている(まさに遺言「書」であることが必要)ことからすれば、録音・録画による遺言は無効であると考えられます。
5 自筆での遺言書作成ができない事情があるとき
どうしても自筆での遺言書作成が困難である場合には、自筆で記載する必要のない公正証書遺言という方式を用いれば、問題は生じないこととなりますので、利用を検討されると良いと思います。