流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。
遺言書の作成に当たり、いくつか注意すべき点があります。自筆での作成、日付の記載、氏名の記載、押印の4点です。これらの要件を欠く遺言書は、無効とされてしまいます。
今日は、この注意すべき点のうち、「押印」に関する問題を検討します。
遺言書を作成しているとき、ハンコがみつからず、困ってしまうこともあるかも知れません。そのときに、ハンコ以外のものを遺言書に記載したとき、遺言書は有効とされるか否か、考えてみたいと思います。
1 拇印を押した場合
指にインクをつけて、押したものを拇印といいます。ハンコの持ち合わせがないときに、昔からよく利用されている方法です。
(時代劇などでも、借用書に拇印を押させるシーンが出てくることがありますよね。)
この拇印は、ハンコの代わりになるのでしょうか。
この問題を考えるには、なぜ遺言書にハンコを押す必要があるとされているのか、その趣旨を考える必要があります。
遺言書に押印が必要とされている趣旨は、①ハンコを押させることによって、その遺言書の内容が遺言者の真意に基づくものであることを確認すること、②重要な書類を完成させるには押印すべきであるという日本の法慣行(常識)、の2点にあると考えられます。
そして、拇印を押せば、上記①②の趣旨は十分に果たされるものと考えられます。とすれば、拇印が押してある遺言書も、押印があるものとして、有効なものと解釈すべきでしょう。
2 花押を記載した場合
花押とは、サインを図式化したもので、これも歴史上、長く用いられている形式です。ハンコが出回る前は、もっぱら花押が用いられていたようです。
現在でも、内閣の閣議の際の署名に、花押が用いられることもあったりしますので、むしろ正当な手法と言うべきなのかも知れません。
花押については、最近、高裁レベルで、印として有効であるとする判決が出ています。
花押は、印鑑よりも偽造が難しいものであることを踏まえ、このような判断が下されたようです。
もっとも、この判決の場合、被相続人が生前から花押を使い続けていたという事情があるようですので、この点も踏まえた判断がなされたというべきでしょう。
また、古文書などを見ると、簡単な形の花押(○や△など)の略花押と呼ばれる花押が用いられている場合がありますが、このような形の花押であれば、偽造が容易であるといえますので、印として有効であるということは難しくなるのではないかと思います。