流山法律事務所の弁護士の川越伸裕です。
労働者が会社を辞めようとしたら、会社から損害賠償を請求された、という事案を何度か見たことがあります。例えば、トラックの運転手が以前に事故を起こしており、トラックの修理費がかかったとの理由で、退職時に修理費を支払えと請求される、などの事案です。
これは、会社が退職を妨害して人手不足に陥ることを回避しようとしたり、金銭の請求によって利益を上げようとしたりする意図で、このような請求がなされるのではないかと思います。
そのようなとき、労働者は、会社の請求に応じなければならないのでしょうか。
結論から申し上げれば、基本的には、会社の請求すべてに応じる必要はありません。
会社は、労働者を使用して利益を得ています。とすれば、労働者を使用して損害(マイナスの利益)が出てしまったときも、そのリスクを会社が負うべきだからです。
もっとも、労働者が大きなミス(例えば、居眠り運転や飲酒運転など)をしてしまったことが原因で損害が生じてしまったときは、労働者にも損害を負担する義務があります。
とはいえ、それは損害額の全額ではなく、「損害の公平な分担」という観点から検討し、賠償額は相当程度減額されるものとされています。
その際に検討される内容としては、「事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度の他諸般の事情」などがあります。
これらの要素を具体的に検討して、労働者に負担させるべき損害額が決められることとなるのです。
なお、会社の規則(就業規則)に、損害賠償についての規定が設けられていることがあります。そのような規定がないかを確認する必要もあるでしょう。